2026年09月21日

父とジェラート ~最後に、父と私をつないでくれたもの~

父とジェラート ~最後に、父と私をつないでくれたもの~

父が亡くなりました。

父と私の関係は、長いあいだ、良好とはほど遠いものでした。

なぜ、ジェラート屋のブログにこんな話を書くのか。

それは、長いあいだ距離のあった父と私を、最後につないでくれたものが、Nicolitaのジェラートだったからです。

今日は少しだけ、そんな個人的な話を書こうと思います。

 

父とは、ずっと距離がありました

父は、昔ながらの価値観がとても強い人でした。

仕事一筋で、男はこう、女はこう、と考えるような人。

小さい頃から、父と楽しく遊んだ記憶や、学校行事に来てもらった記憶はほとんどありません。

そんな家の空気に窮屈さを感じていた私は、高校生のとき、逃げるようにオーストラリアへ留学しました。

ホストファミリーは、夫婦が対等に話し、家族の団らんを大切にする家庭でした。

「夫婦や家族って、こんなふうでもいいんだ」

私にとっては大きなカルチャーショックでした。

その経験は、その後の私の生き方に大きな影響を与え、結果として、帰国後の父との関係をさらに難しくすることにもなりました。

社会人になってすぐ、私は実家を出ました。

 

孫ができて、少しだけ変わった関係

そんな父との関係が少し変わったのは、私に娘が生まれてからです。

初孫を、それはもう溺愛した父。

自分の子どもをお風呂に入れたこともなかった人が、孫とは毎日のように一緒に入る。

「父は、こんな顔をするんだ」

と、不思議な気持ちになったのを覚えています。

娘を間に挟むことで、父とは少しずつ会話ができるようになりました。

けれど、長年の距離感は、そう簡単には変わりません。

そして、ある出来事をきっかけに、私は父と会わないことを決めたのです。

 

今年のお正月、父に会いに行きました

長いあいだ父と会わずにいた、今年のお正月。

ふと、

このまま会わずに終わるのは嫌だな

と思いました。

それで、久しぶりに実家へ行き、父に会いました。

私の顔を見た父は、泣きながら、

「よく来たな」

と言いました。

これまでのことを話し合ったわけでも、長い時間を埋めるような会話があったわけでもありません。

でも、それでよかったのだと思います。

 

父は、ジェラートが好きだった

父と再会する10か月ほど前、私はNicolitaを始めていました。

店を始めてからは特に忙しく、父もあまり体調が良くなかったため、会う機会をなかなか作れませんでした。

その代わり、ときどき実家へジェラートを送っていました。

すると、父がとても喜んでいるというのです。

母が、

「何十年も一緒にいるけど、パパがこんなにアイスが好きだなんて知らなかったわ」

と驚くほど。

食が細くなっていた父も、ジェラートだけはよく食べていたそうです。

 

父が私の仕事をどこまで理解していたのかはわかりません。

それでも、自分が作ったものを父がおいしいと思って食べてくれている。

それが、なんだか嬉しかったのです。

 

最後に届けたジェラート

亡くなる一週間ほど前。

父がNicolitaのオンラインショップから、突然ジェラートを注文してくれました。

私は頼まれたものにいくつかおまけを足して、父のもとへ送りました。

ジェラートを受け取った父から電話があり、

「なんか、思ったよりたくさん入ってたけど。儲けが少なくなって悪いな」

と言われました。

そして、それが父と交わした最後の会話になりました。

母によると、今回届いたジェラートも、毎日ひとつずつ楽しみに食べていたそうです。

でも、全部食べ終わる前に、いなくなってしまいました。

母は残ったジェラートを見て、

「こんなことなら、1日1個なんて言わず、何個でも食べさせてあげればよかった」

と言います。

でも私は、全部食べ切れなかったことを残念に思うよりも、

最後まで「明日は何を食べよう」と楽しみにできるものが冷凍庫にあったこと。

そして、それが私のジェラートだったこと。

そのことを、少し誇らしく思っています。

 

ジェラートがつないでくれたもの

父とは、一生を通じて、本音で話せたことがほとんどありませんでした。

親子だからといって、何でもわかり合えるわけではない。

長い時間を経ても、埋まらないものはあります。

でも最後に、ジェラートがありました。

ジェラートがなかったら、亡くなる数日前に父と話すこともなかったと思います。

私が作ったものが、父の最後の日々に、小さな楽しみとなったこと。

ほんのひとときでも、

「これ、おいしいな」

と思ってくれた時間があったこと。

それだけで、十分だったのかもしれません。

人の幸せって、案外そういう小さな時間の積み重ねなのだと思います。

 

Nicolitaのジェラートが、これからも誰かにとって、

疲れた日の、小さなご褒美だったり。

家族と一緒に食べたくなるものだったり。

明日がほんの少し楽しみになるものだったり。

そんな存在になれたらと思います。

 

父にジェラートを作れて、よかった。

そしてこれからも、そんなジェラートを作っていきたいと思います。